ユーカリの発芽と事前処理
ユーカリはオーストラリアの各所に生息し、
暑いのが好きなものから、寒いのが好きなもの、
湿潤を好むものから、乾燥を好むものまで
本当に多種多様な品種があります。
その中でも特に寒いのが好きな品種で、
高山や純高山に生息しているような品種には、
上手く発芽をさせるために、
コールドトリートメント(冷却処理)を
必要とする品種がいくつかあります。
この処理は、収穫仕立てのタネでもない限り、
大概は冷蔵庫などの中で長期保管されていますから、
全く行わなくても発芽ゼロということは滅多にありません。
私も数株程度確保できればいいので、
この処理をしっかりと行うようなことは滅多にありませんが、
商用などで、より多くを発芽させるためには、
この処理を工夫する必要がありそうです。
先年の秋口に下記のタネを播きました。
Eucalyptus kybeanensis
Eucalyptus glaucescens(Mallee)
glaucescensについては、
以前から育ててはいますが、
珍しいMallee(灌木)タイプのものが
新たに手に入ったので新しく播きました。
これらの品種は、比較的長い
コールドトリートメントを必要とする品種です。
どちらももちろん購入した時点で
収穫仕立てではないでしょうから、
そのまま何もせずに播きました。
私は5.5cmの小さなポリポットに
少しタネを播くくらいですが、
それでも発芽率の良いものであれば、
数えられないほど発芽することがあります。
上記の品種の結果としては、
kybeanensisがわずか3株、
glaucescensが4株という結果でした。
これは信じられないくらい悪い率です。
どちらも寒さにはとても強い品種なので、
そのまま屋外放置で育てながら、
冬を超えて、最近暖かくなってきてから、
そのポットの状態を見てみました。
すると!
信じられないくらいたくさん発芽しています!
恐らく、冬季屋外放置(水は切らしません)で
天然のコールドトリートメントが成立したのでしょう。
趣味で育てているような人は、
少し冷蔵庫でそのままタネを保管してから播けば、
発芽率は悪くとも、それなりに発芽するものです。
冷蔵庫でそのまま保管するという方法は
簡易コールドトリートメント
とでも言ったところでしょうか。
ところが実際の正式なコールドトリートメントは、
タネにしっかりと吸水を行いながら、
指定期間冷蔵保存するというのが正しいのです。
一例として、公開されているやり方としては、
湿らせた不織布などにタネを包み、
容器に入れて、冷蔵庫などで指定期間保管します。
不織布が乾いたら適宜湿らせていきます。
下記は一般的にトリートメントが必要とされている品種です。
確かにcoccofera/pauciflora/nitens/delegatensisなどでは、
冬を超えてから大量に発芽したということが何度もありました。
※期間は必要とされているトリートメントの期間です。
※☆のついている品種ではトリートメントの重要度は低いです。
※あくまでも一例で他にもあります。
Eucalyptus serraensis ... 6週間
Eucalyptus aggregata ... 4週間☆
Eucalyptus coccifera ... 6週間
Eucalyptus crenulata ... 6週間☆
Eucalyptus cypellocarpa ... 1週間程度☆
Eucalyptus dalrympleana ... 4週間☆
Eucalyptus delegatensis ... 8週間から冬季中
Eucalyptus glaucescens ... 6週間
Eucalyptus globulus ... 3週間☆
Eucalyptus gregsoniana ... 4週間
Eucalyptus johnstonii ... 4週間
Eucalyptus kybeanensis ... 4週間
Eucalyptus melliodora ... 3週間☆
Eucalyptus moorei ... 5週間☆
Eucalyptus nitens ... 4週間
Eucalyptus obliqua ... 4週間
Eucalyptus ovata ... 6週間
Eucalyptus pauciflora(亜種含む) ... 6週間以上
Eucalyptus perriniana ... 4週間
Eucalyptus pulverulenta ... 4週間☆
Eucalyptus radiata ... 2週間程度☆
Eucalyptus regnans ... 4週間
Eucalyptus rodwayi ... 4週間☆
Eucalyptus rubida ... 4週間☆
Eucalyptus subcrenulata ... 4週間
Eucalyptus tenuiramis ... 4週間
Eucalyptus vernicosa ... 6週間
多くの苗がちゃんと必要な人は、
コールドトリートメントを
しっかりと行った方が良さそうですが、
気長に育てている趣味レベルの人は、
秋口にタネを播いて、水を切らさないように
そのまま越冬すれば春にはたくさん発芽しているでしょう。
この真性のコールドトリートメントですが、
保管状態や場所が悪いと、
そのままタネが腐ってしまうこともあるので、
少し気をつけてくださいね。- # by eucalyptus_k | 2013-03-26 12:21 | ユーカリ(栽培知識)
もうすぐ春!現在のユーカリ達
今年は簡易温室を全く使用することなく、
全てのユーカリを屋外越冬することができました。
※ベランダなので軒下越冬ですが。
まだまだ寒さの残る季節ですが、
もうほぼ冬は越えたと言っても良いでしょう。
結果としては、
いくつかポット苗の株を水切れで枯らせた以外は、
鉢に定植済みの全ての株が無事です。
今日はそんな冬を越えかけている
我が家のユーカリたちをいくつかレポートします。
寒くなった当初、
酷く枯れ出した品種がありました。
Eucalyptus macrandraという西AZのユーカリです。
このmacrandraは、前評判では、
なかなかの耐寒性を持っているとのことでした。
恐らく、まだ株がかなり小さいので、
通常の水遣りでは過湿になったのが原因かと思います。
そこで、鉢表面からの水遣りを完全に停止して、
鉢底のスリットからの微量な底面給水のみに切り替えたところ、
そこから枯れがピタッとストップしました。
大部分の葉は枯れかけていますが、
新芽などは全く無傷なので、
暖かくなれば復活してくれることと思います。
次に前の冬に屋外越冬を試みて、
瀕死の重傷を負ったerythrocorysです。
昨年、毛の生えた葉から
毛のない細葉に変わり始めて、
かなり耐寒性が上がったようです。
下の方の毛の生えた葉は、
前の冬と同じようにボロボロになっています。
ところが、株上部の毛のなくなった葉は、
ほとんど無傷に近い状態です。
他の毛の生えた葉を持つユーカリもそうですが、
毛のない葉に変わったところで、
かなり耐寒性があがるようですね。
この結果であれば、
葉の毛がなくなったerythrocorysであれば、
関西圏では問題なく屋外越冬ができると思います。
次にこれもあまり寒いのが得意ではない、
decipiens ssp. decipiensです。
寒風吹きっ晒しの場所に置いてありましたが、
特に大きな葉痛みもなく、至って元気です。
この株も潅水量をびっくりするほど減らしていました。
鉢表面からの水遣りは完全に停止して、
鉢底のスリットから週に2回程度、
サラッと水をかけるだけでしたが、
それが耐寒性の大幅アップにつながったようです。
思ったよりも傷んだのが、
Eucalyptus pruinosaです。
この品種は元々さほどの耐寒性は
持ち合わせていないようです。
新芽はとても綺麗なのに、
古い下の方の葉だけ傷んでいるという不思議な状態です。
恐らく、鉢がスリット鉢ではないため、
用土の乾きが掴みにくく、
どうしても潅水が多めになったからかもしれません。
下の方の葉はボロボロ散っていきますが、
新芽付近は元気なので、
いずれ復活してくれることと思います。
最後に、見た目だけはかなり紅葉が激しくなる、
我が家の2mオーバーの品種たちです。
左の大きな葉の紫になっているものはcamaldulensis、
真ん中奥の同じく紫の大葉のものはrobusta、
右のあまり変化のないものはglobulus ssp. globulusです。
前者の2種は毎年、激しく色が変わってびっくりしますが、
痛みなどはなく、至って元気なものです。
この他では、melanophloiaなども激しく色が変わります。
これ以外のユーカリは至って元気、
葉痛みなどもほとんどありません。
これから春を迎えて、
どんどん元気な葉を出して欲しいものです- # by eucalyptus_k | 2013-03-18 17:02 | ユーカリ(栽培実績)
【ユーカリ紹介-62】
ユーカリ・ベルニコサ (Eucalyptus vernicosa)続きまして第62回目は
ユーカリ中で最も成長が遅く、樹高も低い、
1500m近いタスマニアの高山地帯に生息する
完全に高山植物の超際物ユーカリ、
ユーカリ・ベルニコサです。
◎ユーカリ・ベルニコサ
【学名:Eucalyptus vernicosa】
【英名:Varnished Gum】
このvernicosaは、700m~1500m以上の
タスマニアの高山地帯に生息する
完璧な高山植物のユーカリです。
現地でも超レアなユーカリで、
タネを手に入れるための手段は非常に限られています。
このvernicosaには、
非常に成長が遅いという大きな特徴があります。
その成長の遅さはどのくらいかというと、
我が家で2年目の写真の株が15cm程度。
現地のプロの栽培者が育てたものでも、
12年目で60cmというからびっくりです。
※現地のプロの3年目の株です。
その成長の遅さが原因となって、
栽培した株からタネを収穫するのは非常に困難で、
収穫できるのはほんの一握りの
長期間栽培を続けている栽培者だけです。
そのため、このvernicosaのタネを手に入れるには、
その非常に限られた栽培者から購入するか、
実際に1500m近いタスマニアの高山まで、
タネが実る季節に合わせて収穫に行くしかありません。
このような理由から、
vernicosaのタネはまず市場に出回ることはありません。
現在、私はvernicosaのタネの販売先を
わずか2件だけ見つけることができましたが、
この2件はいずれも上記の「限られた栽培者」になるので、
その価格はびっくりするほど高価です。
何と!そのタネの価格は、
わずか40粒が約800円近くもします!
また在庫も非常に限られているため、
数gという量での大口販売はしてもらえません。
他のユーカリではありえない程に
高価でレア度の高いユーカリなのです。
その他のユーカリのタネであれば、
広いスペースに無作為に播くのが普通ですが、
vernicosaのタネはもったいないので、
1つのポットにしっかりと
1つのタネを播くようにしています。
他にもいくつかvernicosaのタネを
売っているタネ屋が存在しているのですが、
これらは全てまがいものの可能性が高いです!
樹高や生息地は大きく異なりますが、
vernicosaと良く似た、
subcrenulataというユーカリがあります。
特に育苗初期の外観が良く似ており、
発芽してしばらくするまでは、
ほとんど区別が付かないほどに良く似ています。
巷で良く売られているvernicosaは、
大概がこのsubcrenulataなので、
vernicosaのタネを購入しようとする場合には
そのタネ屋がしっかりとした出所のタネを扱っているのか、
十分に確認してから購入するようにしてください。
vernicosaの葉は、
その樹高と同じくとても小さいものです。
葉の直径は大きく育った株の最大サイズでもわずか2cm、
数センチの苗木サイズであれば、1.5cm以内です。
我が家の株のように樹高が30cmにも満たないような、
数年レベルの株であれば、直径1cmにも満たない葉がたくさんあります。
タネを購入して育てた場合、
最初から直径2cm以上の大きな葉が生じたり、
1年目で30cmを超えるような株は、
残念ながらvernicosaではなく、subcrenulataです。
※subcrenulataは大型品種です。
vernicosaの葉はとても強い光沢を持っており、
陽に当たると非常に良く光ります。
その学名も英名もその葉の光沢に起因しており、
vernicosaもVarnishedも全く同じで、
ニスや上薬を塗ったようなという意味になります。
そしてその茎は、少しザラザラしており、
綺麗な赤い色をしていることが多いです。
こんなレアなvernicosaですから、
さぞかし栽培の難しいユーカリであろうと
思われることと思います。
ところが、vernicosaは、
あらゆる環境に適応できる非常に強健なユーカリです。
vernicosaの生息している高山は、
年間降水量が1000mmにも満たないときもあれば、
2500mm以上にまでもなることがあります。
また、樹木もまばらな高山では、
真夏は40℃を超えるような高温になるときもあれば、
真冬は-20℃以下になり、積雪も激しい環境です。
そのため、かなりの過湿耐性と同時に、
そこそこの乾燥耐性も兼ね備えています。
また、高山生息種は、大概が寒さには強くても、
暑さに弱いユーカリが多くなっていますが、
vernicosaは暑さにも決して弱くはありません。
もちろんその耐寒性はユーカリ中屈指の強さを持っています。
また、用土の凍結や積雪、霜に対してもとても強いです。
ただし、vernicosaは特に日光が好きな品種なので、
半日陰などでは、貧弱で病気がちな株になりますので、
終日直射日光の当たる環境での管理が重要になります。
vernicosaは、とにかく日照以外には、
目だった注意点も弱点も見つからないユーカリです。
vernicosaを育てていて感じるのは、
どちらかというと、過湿耐性よりも乾燥耐性の方が弱いので、
暑い時期の水切れに注意が必要になります。
こんなに成長が遅く、小さな小さな株ですが、
びっくりすることに写真の株は、根がすでにパンパンです。
樹高の割には、根張りはしっかりしているので、
気づかないうちに水が切れているということもあります。
5.5cmのポット苗で育てている株も、
わずか3cmくらいの苗で、ポットが根でパンパンになります。
これは他のユーカリでは考えられないことなので、
育てる際には少し注意してください。
冬場の管理では、全く心配するところはありません。
逆に、冬場でもそこそこ水を吸うので、
水切れに気をつけて欲しいくらいです。
水を遣り過ぎて、用土が完全に凍結しても、
ダメージどころか、葉痛みさえ起こりません。
我が家の株は根がパンパンなこともあり、
冬場でも、表面がカラカラに乾いたら、
その日のうちか翌日の朝には
必ず水を与えていますが、とても元気です。
現地のデータによると、vernicosaは、
crenulataと並んで、ユーカリ中でも
トップクラスの過湿耐性を持っているようです。
光沢のあるユーカリは、
どれもうどんこ病に弱いという特徴がありますが、
vernicosaもどちらかというとうどんこ病に弱い方です。
日照不足の際には、
激しいうどんこ病の被害が出ることもありますので、
他には弱点のないvernicosaですが、
日照にだけは十分に気をつけてください。
もう語る必要もなさそうなvernicosaの耐寒性ですが、
地植えの成樹であれば、-20℃以上という実績があります。
これは、北海道であっても、
かなりの場所で屋外越冬が可能なレベルです。
我が家には、他にもgunniiなどの
高い耐寒性を兼ね備えたユーカリがあります。
これらのユーカリは厳冬期に気温がそこそこ下がると、
紅葉や少しの葉痛みが生じることがあります。
ところがvernicosaは、冬になっても、
夏場と比べて、葉に全く変化が起こりません。
一度、厳冬期に1cm程度のタネ播きから間もないポット苗が、
ガチガチに凍結したことがありましたが、
vernicosaはヘタることも、傷むこともありませんでした。
※そのときの記事はこちら
冬場は放置しすぎの水切れ以外には、
気をつける必要のあるポイントは見当たりません。
気になるvernicosaの香りですが、
シネオール中心のスッとした香りがします。
cinereaなどのように生臭みはなく、
非常に爽快な生粋のシネオールの香りです。
香りは強くもなく、弱くもないといったところで、
cinereaなどと同じか少し控え目なくらいで、
指で葉をサッと撫でると良く香ります。
成長速度の遅さから、リースなどに使用するのは困難でしょうが、
それなりに香りを楽しむこともできるユーカリです。
最近は西AZの砂漠地域のユーカリを
メインに育てている私ですが、
一方で、このvernicosaを育てていると、
本当にユーカリの多彩さに驚かされます。
成長が遅いことは、長期間安定して育てられる
というメリットにもなり、成長の遅い盆栽を、
のんびり育てるような感覚で栽培できます。
ただし、非常にレアなユーカリなので、
育てるためには、少し高価なタネを買って
そこから育てる必要があります。
現地の限られた栽培者が、私に、
日本人でvernicosaのタネを買うやつは
君が初めてだと言っていました。
もしかすると今、
日本でvernicosaを栽培しているのは、
この私だけかもしれません!
次に名乗りを挙げて、
栽培にチャレンジしてみたい方には、
タネの販売先をご紹介します。
在庫は限られているので、
vernicosaを育てたい方はお早めに!
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<栽培難易度:A+>
香良さ:★★★
香強さ:★★★
成長力:☆
要水分:★★★
耐過湿:★★★★
耐水切:★★★
耐日陰:★
耐移植:★★★★
耐寒性:★★★★★
耐暑性:★★★
耐病虫:★★★
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※A簡単~E難しい / A+...Aより少し難しい- # by eucalyptus_k | 2013-03-04 17:52 | ユーカリ紹介