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識別しにくいユーカリ(2)~Eucalyptus gunnii~

第一回の~はじめに~を何気なく書いて、
そこからすぐに「止めようか?」という壁にぶち当たりました。
何故かというと、このgunniiの識別は、
おそらく全ユーカリ中で最も困難になると思われたからです。

今回は当ブログを書いている中で
最も時間と労力を費やしました。
読んだ資料は10点を超え(全て英語です。。。)、
問い合わせた現地の栽培者や研究者は5名以上。
それでも確固たる結論は出ていませんが、
とりあえず今の時点で分かったことを書いていきます。

今後も引き続き、研究は続けていきます。
そして分かったことは必ずこちらに書いていきたいと思います。

まず、gunniiで学術的に認められている亜種は下記の3種です。
---------------------------------------------
Eucalyptus gunnii ssp. gunnii
Eucalyptus gunnii ssp. archeri
Eucalyptus gunnii ssp. divaricata
---------------------------------------------
この中のssp. divaricataですが、
これは英語のDivaricate(分岐する)から来ており、
ssp. gunniiから分岐して
新しく分類された品種という意味です。

ここで一つとても厄介なことがあります。
学説によってはこのssp. divaricata
ssp. gunniiと完全に同種とみなすこともあるのです。

まあそれだけ良く似ているということで、
資料や情報も格段に少なくなってしまいます。
もちろん、今回はssp. divaricata
完全に別種として考えていきます。

このssp. divaricataは絶滅危惧種に指定されており、
恐ろしく狭い、超限られた地域にのみ自生しています。
もし、興味があったらGoogle Mapで調べてみてください。

タスマニア島のMienaという町付近に
Shannon Lagoonという周囲7km程度の小さな湖があります。
ssp. divaricataはこの湖の周囲にのみ
わずかな数だけ自生しています。

周囲7kmというと富士五湖の中で
最小の精進湖と同じくらいの湖です。
ということはssp. divaricataは、例えばヒノキに例えるならば、
精進湖の周囲にのみわずかに生息しているヒノキのみを
別種として認定しているのに等しいということになります。

通常であれば、このような限定された品種を
私がタネを入手して育てたり、
苗をホームセンター等で購入することなどあり得ないことです。

でも、そこらへんのホームセンターで売っているんです!
タネも現地の種屋であればどこでも扱っています。
アメリカやヨーロッパでgunniiといえば、
十中八九はこのssp. divaricataのことです。

なぜここまで、このssp. divaricata
メジャーになったのでしょうか?
それは、フラワーアレンジなどに向く品種だと目をつけた
ヨーロッパの栽培者が現地でタネを手に入れて持ち帰ったそうです。
そして、その美しい外観と強健でコンパクトに育つ性質が人気で、
またたく間に世界中でgunniiの園芸品種として広まったようです。

こんなに簡単に広がる品種が何故絶滅の危機にあるのか?
それはこの強健なssp. divaricataには、
水切れにだけは非常に弱いという弱点があるためです。
1990年頃から生息地の雨量が減少し、干ばつが続いた結果、
多くのssp. divaricataが枯死してその数を減らしました。

まずはssp. divaricataに関する
これらの情報を押さえた上で識別へと進みたいと思います。

gunniiの識別は単純に3種を比較することは不可能です。
まずは第一段階の比較として、
ssp. divaricataか?それ以外の2種か?という識別を行います。

早速ssp. divaricataの写真を見ていきましょう。
fancybox記事133の画像1

fancybox記事133の画像2

fancybox記事133の画像3

以下の写真は私のところで育てているものです。
まずは比較的幼い苗の写真です。

fancybox記事133の画像4

そして次はかなり調子良く成長した苗です。

fancybox記事133の画像5

遺伝子的にはgunniiUrnigeraの間に位置するようなので、
葉がかなり綺麗な白銀水色をしていて、
色だけで見るとCinerea(銀丸葉ユーカリ)のようです。

次にssp. divaricataの特徴です。
-------------------------------------------------------------
-苗時点-
1. 葉や茎は非常に強く粉を吹き、白銀水色になる
2. 葉が楕円よりもかなり丸くなる傾向が強い
3. 大きく育っても葉は比較的小さ目の傾向が強い
4. 茎のザラザラは成長後、早い段階で消えてなくなる。
5. 茎は四角型と丸型が等しく発生する
6. 葉先が尖らずに丸くなる傾向が強い
7. 対に付いた葉同士の茎との接点は重なりやすい
8. 非常に脇芽が出やすく、こんもり育つ


正直、非常に曖昧ではありますが、
これが苗時点での特に大きな識別のポイントです。
とにかくgunniiをたくさん見てください。
そうすれば、何とか識別が可能になると思います。
一番大きなポイントは1と2です。

-樹木時点-
1. 蕾・実は非常に白色が強くなる
fancybox記事133の画像6
2. 実の形はツボ型になる
3. 12m~15m程度の低木に育つ
4. 大きく成長してからの葉は白色が強い
5. 木立ち(Tree)型に育つ

fancybox記事133の画像7

-その他
1. 香りはシネオールを含まず、柑橘系が強い
2. 耐寒性は非常に強い(-18℃以上)
3. 水切れに弱い
4. Shannon Lagoon周辺の限られた地域にのみ生息


他の2種はここまで白い蕾をしていません。
これは大きな識別のポイントですね。
ちなみにssp. gunniiはもっと大きな木へと育ち、
ssp. archeriは灌木型(Mallee)に育ちます。
-------------------------------------------------------------

次に第二段階の比較として、
ssp. gunniiか?ssp. archeriか?という識別を行います。
結論ですが、この識別は葉や茎などからはほぼ不可能です。。。

まずはssp. gunniiの写真を見ていきましょう。
fancybox記事133の画像8

fancybox記事133の画像9

fancybox記事133の画像10

成長するごとに葉は白くなっていきます。
ssp. divaricataに比べると葉は大きく楕円形をしています。

次は私のところで育てている苗です。
少し寒さで痛んで赤くなっています。

fancybox記事133の画像11

fancybox記事133の画像12

ssp. gunniiの特徴です。
-------------------------------------------------------------
-苗時点-
1. 葉は新芽・下葉ともに白く粉を吹いたように成長する
2. 茎も比較的白く育つ傾向が強い
3. 茎のザラザラは成長後、早い段階で消えてなくなる。
4. 茎は四角型の場合もあるが、丸型になる傾向が強い
5. 葉先が尖らずに丸くなる傾向が強い
6. 対に付いた葉同士の茎との接点は重なりやすい


-樹木時点-
1. 蕾は少しだけ白くなる
fancybox記事133の画像13
2. 実は白く粉を吹いたようになる
3. 実の形はツボ形になる
fancybox記事133の画像14
4. 25m以上の大木に成長し、3種の中では最も大きくなる
5. 大きく成長してからの葉は白色が強い
6. 木立ち(Tree)型に育つ

fancybox記事133の画像15

-その他-
1. 香りはシネオールを微量に含み、ミント系が強い
2. 3種の中で耐寒性は最も弱く、葉が傷みやすい(-15℃)
3. 水切れに弱い
4. タスマニア島広域の湿地帯や湖・川の付近に生息

-------------------------------------------------------------

次にssp. archeriの写真を見ていきましょう。
fancybox記事133の画像16

fancybox記事133の画像17

fancybox記事133の画像18

次は私のところで育てている苗です。
少し寒さで痛んで赤くなっています。

fancybox記事133の画像19

ssp. archeriの特徴です。
-------------------------------------------------------------
-苗時点-
1. 葉は新芽が非常に白色が強く、下葉は緑色が強くなる
2. 茎は比較的緑色もしくは赤色に育つ傾向が強い
3. 茎のザラザラは成長後も長く残る
4. 茎は丸型の場合もあるが、四角型になる傾向が強い
5. 葉先が丸くならずに尖る傾向が強い
6. 対に付いた葉同士の茎との接点が重なりにくい


-樹木時点-
1. 蕾と実が白くなることはない
fancybox記事133の画像20
2. 実の形はカップ形になる
fancybox記事133の画像21
3. 10m以内の低木に育つ
4. 大きく成長してからの葉は緑色が強い
5. 灌木(Mallee)状に育つ

fancybox記事133の画像22

-その他-
1. 香りはシネオールが強く、わずかにミント系が香る
2. 耐寒性は非常に強い(-18℃以上)
3. 3種の中では最も水切れに強い
4. タスマニア島の標高1100m以上の高山に生息

-------------------------------------------------------------

いかがですか?
ハッキリいって写真では区別がつかないと思います。
苗時点では個体差が特徴を上回るため、
見た目による識別はほぼ不可能といえます。

苗を何本も見てきている現地の栽培者からも、
「苗時点では全く同じ」という回答をもらいました。

一番の識別のポイントは、
樹高、木立ちか灌木か、蕾・実の色とその形状の3つです。
ところが実際は現地の栽培者でも、
外観からの識別はほとんど行わず、
しっかりとタネから管理しているようです。。。

とにかく、苗時点でのssp. gunniissp. archeri
確実な識別方法は、今の時点では私にもわかりません。

そこでタネのルーツから考える識別です。

こんなに外観が似ているにも関わらず、
ssp. archeri「Eucalyptus Archeri」
完全に別種扱いされるほど、
gunniiから切り離されて分類されています。

よってssp. archeriのタネが
Eucalyptus gunniiとして販売されていることは
ほとんどあり得ないと考えられます。

逆にssp. gunniissp. divaricata
Eucalyptus gunniiとして
ごっちゃになっていることが多いでしょう。
寧ろヨーロッパやアメリカからgunniiのタネを買うと、
かなり高い確率でssp. divaricataのタネが来ることでしょう。

よほどマニアックでもない日本の栽培者は、
ほとんどがEucalyptus gunniiでタネを仕入れているはずですから、
ssp. archeriのタネが紛れ込む可能性は非常に低いことになります。
よって、日本で販売されているgunniiについては、
ssp. gunniiか?ssp. divaricataか?の
第一段階の識別でほぼ間に合うと考えられます。

最後に私の家にもあるvar. silverdropという園芸品種ですが、
上記全ての判別を行った結果、
ssp. gunniiでほぼ間違いないと思います。

var. silverdropという名のタネは
ヨーロッパでのみ販売されているものです。
ssp. divaricataが主流のヨーロッパでは
gunniiは完全な丸葉というのが当たり前。

逆に葉が楕円のssp. gunnii
SilverDrop(銀の雫)と特徴づけて呼んでいる。
あくまでも推測ですが、このように考えられますね。

ここまで長文を読んでいただいて
本当にありがとうございました。

一番最後は我が家自慢の
silverdropの写真で締めくくらせていただきます。

fancybox記事133の画像23

fancybox記事133の画像24

私の適職??
どんな適職診断でやっても
もちろん"学者"ですw

こんなにgunniiばっかり見ていたら、
凄くgunniiが好きになっちゃったなぁ♪

# by eucalyptus_k | 2011-02-09 05:43 | ユーカリ(品種知識)
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