【ユーカリ紹介-63】
ユーカリ・マクロカルパ・エラチャンサ
(Eucalyptus macrocarpa ssp. elachantha)続きまして第63回目は
少し丸みを帯びた小型の葉を持ち、
ユーカリ中で最大の赤い花も若干小ぶり、
ユーカリ・マクロカルパの矮性種である
ユーカリ・マクロカルパ・エラチャンサです。
◎ユーカリ・マクロカルパ・エラチャンサ
【学名:Eucalyptus macrocarpa ssp. elachantha】
【英名:Small-flowered Mottlecah】
このssp. elachanthaは、
ユーカリの王者的存在であるmacrocarpaの矮性種で、
原種のssp. macrocarpaと比較すると、
葉や実、その花のサイズが若干小ぶりになります。
原種の花は、最大で直径10cmにもなるのですが、
ssp. elachanthaの花は、最大で直径8cm程度と
若干小ぶりになるようです。
この花のサイズは、rhodanthaの花と
ほぼ同じ程度の大きさになりますので、
rhodanthaと同率で、ユーカリ中で
二番目に大きな花を咲かせるユーカリということになります。
矮性種ということで、原種と非常に良く似ており、
素人目にはなかなか見分けはつかないでしょう。
2種を並べて育ててみると、全体的なパーツのサイズや、
その葉の形状の違いで何となく識別できるようになります。
では早速、原種のssp. macrocarpaと、
ssp. elachanthaの葉の形状とサイズを見比べてみましょう。
まず原種のssp. macrocarpaの葉です。
葉は全体的に長細くなり、
最大のものでは、15cmもの長さになります。
次にssp. elachanthaの葉です。
ssp. macrocarpaの葉と比べてみると、
全体的にかなり丸みを帯びています。
また、最大のものでも、長さは9cm程度と
原種よりも6cmほど短い葉になります。
私の指と比較していただくと、ssp. elachanthaの方が、
かなり小ぶりなのがお分かりいただけると思います。
長さは原種の方がかなり大きくなるのですが、
葉の幅の最大サイズになると、両者とも8.5cm程度となるため、
自ずから、原種の葉は長細くなり、
ssp. elachanthaの葉は丸みのある葉になります。
我が家の株では、株元から枝分かれした幹に、
とても丸い葉が生じています。
この葉を見ると、ssp. macrocarpaより、
寧ろrhodanthaにも見えてしまいますね。
どちらかというと、rhodanthaは、
長さより幅の方が大きいような際立った丸葉が生じますので、
実際の見た目はかなり異なってくるのですが、
原種の方で、このような丸葉が生じることは、
ほとんどありえないことです。
葉の白さや外観の美しさに全く差はなく、
原種と同様に、際立って美しい純白の葉と
その見事な茂みの薔薇にも例えられる大きな花は、
まさにユーカリの王者的存在といえるユーカリです。
ところが、ssp. elachanthaのタネを手に入れるのは非常に困難で、
現在、販売しているタネ屋はたった一つしかありません。
このタネ屋での在庫がなくなってしまうと、
その次の入手手段は未知数になってしまいます。
そのくらいマイナーでマニアックなユーカリですし、
ssp. elachantha限定で育てたいというマニアの方以外は、
普通に原種のssp. macrocarpaを育てれば良いのかもしれません。
ssp. elachanthaと原種との差は、
上記で挙げたような僅かな差しかありませんし、
ssp. elachanthaは原種よりも色々とデリケートなので、
最高レベルの栽培難易度を持つssp. macrocarpaよりも、
さらに少しだけ厄介になってきます。
ssp. elachanthaもssp. macrocarpaと同様に、
水分管理にかなりうるさい性質を持っています。
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・土が完全に乾いたら即水遣りが必要
・菌に弱く非常に寝ぐされしやすい
・半日直射日光以上の日照量が最低限必須
・雨の残り雫でも葉が傷み、病気に弱い
・肥料あたりしやすくリン酸を嫌う
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といった厄介な性質をもったサボテンを育てるイメージです。
植物は放置が一番という人より、
雨が降るたびにわざわざ鉢を移動するくらいの
非常に熱心でマメな人向きのユーカリといえます。
また、ssp. elachanthaは、
原種のssp. macrocarpaと比べると、
土のpHに非常にうるさい性質を持っています。
肥料や石灰などを与えすぎたり、
土の配合によってpHがアルカリ寄りに傾くと、
途端に鉄分欠乏症となり、葉がボロボロになります。
葉の葉緑素が抜けて、葉脈だけに葉緑素が残り、
葉に褐色の斑点ができてボロボロになるのは、
典型的な鉄分摂取障害による欠乏症の症状です。
元々、macrocarpaは多肥を嫌い、
土も酸性~弱酸性の貧しい用土を好むユーカリですが、
ユーカリの中でも、かなり鉄分を必要とする品種でもあります。
macrocarpaにも全く肥料の効果がないわけではありませんが、
日本に売っている多くの化成肥料には、
pHをアルカリ寄りにしてしまう成分が多く入っており、
鉄分を与えようと肥料を与えすぎてしまうと、
結果としてpHが高くなって、土中には鉄分は豊富にあるのに、
それを摂取することができないという状況が起こります。
原種のssp. macrocarpaについては、
高pH耐性が弱いながらもあるようですが、
ssp. elachanthaは高pHによる鉄分欠乏症には特に弱く、
今私の育てているユーカリの中でも、
間違いなく最も酷い結果を残しています。
私は3株のssp. elachanthaを育てていますが、
肥料や苦土石灰などを豊富に与えた2株は、
酷い鉄分欠乏症の症状が出て、見るも無残です。
我が家では、配合用土に高pHのゼオライトを
デフォルトで混ぜ込むため、この写真の3株目には、
敢えて用土に少しだけ、pH調整なしのピートモスを混ぜ込み、
肥料の類は一切与えないという方針で育てて、
ようやく写真のように見事な株に育ってくれました。
macrocarpa全般に言えることですが、
特にssp. elachanthaを育てるときには、
pHは少し酸性寄りに設定し、肥料は全く与えないか、
与える場合でも、非常に稀で少量にした方が
良い結果が出るかもしれません。
ちなみに、見るも無残な他の2株ですが、
pH調整なしのピートモスを混ぜ込んだ用土に変更し、
現在、養生中&仕切り直しとなっています。
ssp. elachanthaは、
内陸部の半砂漠地帯を中心に生息する原種と比べると、
沿岸部の草原地帯を中心に生息しています。
西オーストラリア州の州都パースから北の沿岸部です。
年間降水量は500mm(大阪の1/3)程度と
原種の生息する半砂漠地帯に比べると、
若干湿潤な地域となっています。
そのため、本当にわずかではありますが、
原種よりも少し過湿に強く、吸水量も多めなります。
とはいえ、夏はほとんど雨が降らずに
雨のほとんどは冬季に集中しているため、
ssp. elachanthaも高温多湿を極度に嫌うユーカリです。
大きくても3m程度の低木であることは、
原種のssp. macrocarpaと全く同じです。
木というよりは藪のように広がって育ちます。
このあたりの性質には、全く差はありません。
西オーストラリア出身のユーカリには
原住民アボリジニーの言葉による
名前を持っているものがいくつかあります。
このssp. elachanthaは
Mottlecah(モトレカ)という名前を持つ原種に対して、
若干花のサイズが小さくなることから、
Small-flowered Mottlecahと呼ばれています。
elachanthaの意味もそのまま
「小さな花」という意味になります。
ssp. elachanthaの魅力は何と言っても
まずその白銀大葉の美しさではないでしょうか
十分日光に当たり、乾燥気味に育てられることで
葉の白みはさらに美しさを増していきます。
ssp. elachanthaの花を咲かせるためには
タネを播いてから平均以上の環境・状態で育てて、
最短で5年程度かかるといわれています。
ただ栽培環境が良ければ、
3年程度での開花も可能なようです。
私の実家に置いているssp. elachanthaでは、
2年半にして蕾が付いていることを確認しました。
※詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ssp. elachanthaが日本で花を咲かせる時期は
ミモザアカシアと大体同じで早春と言われています。
蕾は夏~秋口にかけてでき出して、
そのまま越冬することになります。
急な寒波で蕾が傷んでしまうことがあるため、
蕾ができてからはマメなケアが必要とのことです。
ssp. elachanthaの育て方のポイントとしては
下記のような感じです。
<水分管理>
鉢の表面はカラカラに乾いているのに、
土をひっくり返してみると中はまだ湿っているといった状態を嫌います。
用土の中の方の状態までは中々わかりませんから、
日光の良く当たる風通しの良い環境で育てて乾燥力をあげます。
スリットポットなどのように底面からも
用土の乾燥状態を確認できる鉢があると便利です。
水切れ耐性をそこそこ兼ね備えており、
水が切れると大きな葉が犬の耳のように垂れさがります。
真夏でもそこから1日程度であれば枯れることはありません。
どうしても水分管理に自信がない人は、
葉が垂れさがったら水遣りを心がけるといいでしょう。
ただし、毎日確認することを忘れないでください。
ちなみにssp. elachanthaとssp. macrocarpaを、
両方育てて比較してみると、ssp. elachanthaの方が、
若干水切れが早いことがわかります。
<雨の管理>
用土の乾燥力と日照さえ十分であれば、
必ずしも必須の条件ではありませんが、
雨は極力避けた方が無難なようです。
完全に雨ざらしと雨を避ける環境では、
後者の方が健康で葉も綺麗に育っています。
特に梅雨時期はssp. elachanthaには雨量が多すぎるため、
この時期だけでも雨が降ったら軒下に移すなどすると良いです。
軒下に置きっぱなしでもかまいませんが、
その際は日照量と風通しには気をつけてください。
梅雨時期など湿度の高い環境下で
葉に水がたまると中々蒸発せずに葉が傷むことがあります。
また冬季も葉にたまった水が冷えて、
枯れが出ることがありますので、
葉に水がかかったときには、軽く葉をゆすって
葉にたまった水を落とすようにしてください。
<肥料について>
原種に比べると、鉄分欠乏症の症状が出やすいので、
肥料はほとんど与えない方が良いでしょう。
成長期に少し液肥を与えるのはOKです。
また、葉面散布の鉄分系肥料などは効果的です。
基本的には荒れた貧しい大地を好む品種のため、
植え替え時に肥料を混ぜ込むのは止めた方が良いでしょう。
成長速度を上げたい場合には肥料ではなく、
ssp. elachanthaの好む環境づくりをした方が効果的です。
<日光について>
半日以上直射日光の当たる環境が最低限必要で、
1日中ガンガンに直射日光が降り注ぐような環境が望ましいです。
また、夏は少し涼しい場所よりも、
コンクリートやアスファルト、レンガなどの照り返しがきつく、
地上付近の温度が異様に高くなるような場所が寧ろ向いています。
葉の白さからもわかるように強烈な日焼け止めを持っていますので、
遮光は一切不要、葉焼けなどすることはありません。
※ただし日陰にあった株を急に夏の日差しに当てるのはアウトです。
いつまで経っても葉が大きくならないのは日照不足が原因です。
日照不足の場合は、激しいうどんこ病の被害が出ることがあります。
ssp. elachanthaはうどんこ病にはかなり弱いユーカリです。
葉だけでなく、鉢や用土にも良く日光を当てて、
鉢内の土中温度を上げることも成長力増進に役立ちます。
ここまで書くとかなり難しいと思われるでしょうが、
難しいというよりはマメに育てる必要があります。
旅行や出張が多い人や片手間の人には少し辛いかもしれません。
どうしても自信がないという人は、
kruseana/lehmannii/tetragona/albida/crucisといった
西オーストラリアのユーカリをまず育ててみて、
その水分管理の特徴を身につけると良いと思います。
ssp. elachanthaの耐寒性ですが、思っていたよりもかなり強く、
一般的には-7℃程度までは大丈夫です。
うまく育てればもっと頑張れそうな気がしています。
-5℃程度でもほとんど葉痛みはありませんでした。
葉が分厚いためか、寒風にもかなり強かったです。
ただし、冬季の水分管理はよりデリケートになりますので、
冬季は葉が垂れさがったら水遣りをオススメします。
冬季の吸水の少なさにも本当にびっくりさせられます。
80cm近い大きな株が、月に1回か2回の水遣りで十分なのです。
寒さが心配だということで、
冬季に室内で管理するのは絶対に止めましょう!
室内管理は鉢に余分な水分が残るために根が傷み、枯れます。
私や先人の室内管理の枯死率は100%です><;
最近、良く栽培のポイントなどでお話ししていますが、
冬季に寒さが心配な人は、
ホームセンターなどで売られている簡易温室に入れましょう。
もちろん昼間は扉全開でマイナスにいくような日の夜間のみ扉を閉じます。
本当に思っていたよりも寒さには強いユーカリです。
水分管理については梅雨時期と冬を乗り越えることができれば、
もうマスターしたようなものです!
気になるssp. elachanthaの香りについてです。
外観などでほとんど差のないssp. elachanthaと原種ですが、
香りにはかなりの違いがあります。
ssp. elachanthaは魅力的な花の香りのする原種とは、
全く違った少し生臭くも感じるような香りがします。
シネオールをベースに中途半端なパセリやバジルのような
ハーバルな香りが強く、余り良い香りとは言えません。
実際に含まれる芳香成分が大きく異なるようですね。
また香り自体も原種よりかなり弱くなり、
葉を軽くはたいただけで香る原種とは異なり、
葉を千切って砕いてみないとほとんど香りません。
残念ながら香りを楽しむユーカリとしての利用は
ちょっと難しいかもしれません。
他のユーカリでは、
亜種間であまり香りが異なることはないのですが、
macrocarpaに関しては、全く香りが異なるという
とても珍しい例になっています。
このssp. elachanthaを今取り扱っているのは、
恐らく親愛なるこあら師匠の農場くらいかなと思います。
もし興味のある方がいらっしゃったら喜んでご紹介します。
ssp. elachanthaはタネから販売できる苗サイズまで育てるのが、
非常に厄介で手もかかり難しいのです。
また前述した通り、タネもかなり希少です。
そのため、少しだけ値は張りますが、何卒ご理解ください。
ssp. elachanthaに関しては、私もずっと勉強中です。
特に酷い鉄分欠乏症という結果は、
私に肥料やpHに関する大きな勉強をさせてくれました。
もしssp. elachanthaを購入された方がいらっしゃったら、
一緒に情報をシェアしながら育てていけたらと思っています。
もしよろしければ、
この記事に非公開でメアドを書いてくださるか、
お問い合わせフォームからお問い合わせをいただければ
必ずメールを返信させていただきます。
よろしくお願いします。
この記事を読んで、
原種よりもこのssp. elachanthaを選択する人がいたら
その方はかなりマニアの素質ありです!
とはいえ、今のタネ屋の在庫も多くはないですし、
そこの在庫が切れたら、次の宛てはありません。
もしssp. elachanthaに興味をお持ちでしたら、
今のうちに手に入れておいた方が良いかもしれません。
とにかくssp. elachanthaでもssp. macrocarpaでも、
macrocarpaはびっくりするほど美しいユーカリです。
ちょっと慣れるまでは大変なところもありますが、
原種のssp. macrocarpaと共に、
このssp. elachanthaも育てていきながら、
その花のサイズ等の違いを見比べてみませんか?
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<栽培難易度:E+>
香良さ:★
香強さ:★★
成長力:★★
要水分:★
耐過湿:★
耐水切:★★★★
耐日陰:☆
耐移植:★
耐寒性:★★★
耐暑性:★★★★★
耐病虫:★
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※A簡単~E難しい / A+...Aより少し難しい- # by eucalyptus_k | 2013-04-12 17:44 | ユーカリ紹介
ユーカリ育成ブログです。タネを輸入して150種以上のユーカリを育てています。 By eucalyptus_k
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